「〜♪これっくらいのー おべんっとばーこにー
おーにぎーりおーにぎーり ちょっとつーめて〜♪」
三度の飯より
雲雀恭弥
「委員長、これにサインお願いします。」
「そこ置いといて。」
頭の上にクロワッサンをのっけた少年、草壁は
今日も並盛中学校最強の風紀委員長で、切れ長の目のハンサムボーイに
厚さ役10cmの書類をわたす。
今日も応接室の窓から入る風は心地良く、
今日も大空は青く、
「ヒバリさーんっ!」
今日もうるさいのがやってくる。
「何君、誰?」
「ええっ!覚えてないんですか!?毎日来てるのに!」
「…草壁、もう行って良いよ。」
「…は、はい」
草壁と呼ばれた少年は、
応接室の大きく綺麗なドアを押し開けて出て行く。
「、たのむからほどほどにな。」
そんな言葉を残して。
「ヒバリさん!私今日ちょっとおべんと作ってきちゃったんですよね!」
「早く出てけば。」
雲雀はの方をまったく見ずに、
書類だけを見てペンを走らせている。
「ああもうつめたい!
なんで!?なんでそんなにつめたいんですか!」
「うるさいよ君。友達とか居ないわけ。」
「一番にヒバリさんを愛しているんです!」
カリカリカリカリ……
雲雀の出すペンの音が応接室に響く。
「…あー無視っすか、そーですか!」
はつまらなくなり、応接室のソファーに
ぼすっ、と音を立てて座った。
なんでこうもつめたいのか。
今日はちょっと頑張って早起きしておべんとまで作ってきたのに。
…うわ、悲しくなってきたんですけど!
はもう一度、少年に話しかけようと口を開いた。
「ねーえ、ひばきょ
ヒュッ
…なんだろう今の音。
あっれー私の手こんなに赤かったっけ、
うわ、たれてきたよ、
「えええ?たれた!? うわ顔!血!血いいいいいい!!」
「何さっきの呼び方。咬み殺すよ。」
が顔を再びさわると、真っ赤な液体が手についた。
雲雀の手には、銀に輝く棒状の物体が握られている。
「トンファーですか!そのトンファーで年頃の女の子のお顔殴ったんですか!」
「殴ってなんかいない。かすっただけだろ。」
「んなっ!ちょ、血出てますってば!どーしてくれるんですかこれ!」
「ワオ、血が出てきちゃったね。さっさと応接室を出て保健室に行く事をすすめるよ。」
「え、ええ?これやったのヒバリさ
「うるさいな、咬み殺すよ。」
「…っ」
の顔がゆがみ、赤くなっていく。
そしては大きく息を吸った。
「ヒバリさんのあんぽんたん!うんこたれ!もう良いですよ大っ嫌いです!」
は手に持っていたお弁当を力いっぱい少年に投げつけた。
雲雀はそれを華麗にキャッチする。
それを見たは更に顔をゆがめ、「やっぱり好きですさようなら!」と
叫びながら応接室を出て行った。
「……」
呆れて言葉も出てこない。
なんだ、うんこたれって。女子がそんなこと口にするものじゃないだろう。
それに嫌いだ好きだって、どっちなんだ。
嫌いだったら咬み殺すけど。
「…ふぅ…」
ひとつ、大きな溜息をついて、その長い足をゆっくりと前へ進めた。
「ああああもうなんなんだヒバリさんは!」
は保健室のドアを力いっぱい開けた。
「すんませーん、カッコイイお兄さんにこの美しい顔に傷をつけら…あれ。」
あのエロ教師が座っているであろう椅子に人の影はなかった。
ベッドの上にもどこにもいない。(ベッドの上にいたら困るけど。)
は仕方なく、とりあえずベッドで横になっている事にした。
ああ、眠いなあ…
少年はその長い足を白いドアの前で止め、それを開けて入った。
「ワオ。」
ベッドの前で足を止める。
「どうして寝てるの。」
傷の手当をしに行ったんじゃなかったのか。
それに布団もかけないまま、寝ているだなんて。
雲雀は銀色に輝く棒状の物体、トンファーを取り出し、
「起きなよ。」
目の前で寝ている少女に向けて振り下ろした。
「いいいいいぃぃってええええぇ!!」
「どうして寝てるの。」
驚いたは飛び起きて、なぐられた腹を押さえた。
「ななななんでなぐるんですか!?」
「君が起きないからだろ。」
「いやいやいや!普通に起こしてくださいよ。」
「うるさいな、ほらこれ。」
「ん?」
雲雀はに、先ほど投げつけられたお弁当箱をわたした。
「あー…」
「味付けが濃すぎる。」
「は、え、食べちゃったんですか!?」
「…僕にくれたんじゃなかったの。」
「や、二人で仲良く食べようかと…。」
「意味が分からないよ。じゃあどうして投げつけたまま出てくの。」
「ぐ…っ!」
この男に、口で勝てるはずがない。(いや勝てるもの無いけどさ。)
「食べてあげたんだから有り難く思ってよね。」
「は、はあ…」
それもそうだ、食べてもらえただけでも…
ぐぅううぅ〜
「………」
「………」
の腹が盛大に鳴った。
その音で、雲雀は整った顔をゆがめ、
それを見たは顔を赤くした。
「…食べてないわけ。」
「だ、だって、ヒバリさんと同じおべんと一緒に食べるつもりで…」
「意味が分からないよ。普通二つ作ってくるものなんじゃないの。」
「そんな器用な事できるわけないじゃないですか!この私が!」
「…どれだけ不器用なの君。」
「ぐ…っ!」
は少し顔をゆがめ、ひとつ溜息をもらし、口を開いた。
「あーあー、お腹すいた!」
「自業自得だよ。」
「…でも。」
「何。」
は自信満々、笑顔で言う。
「うんうん!やっぱ三度の飯よりヒバリさんだね!ははっ!」
それを聞いた少年は一瞬だけ、驚いたような顔をした。
「意味が分からないね。」
ヒバリさんが、笑ったような気がした。
空 (2007.10.21)