Oh l'amico !
は私の唯一の友達、いや親友だった。の大事なものを守る為なら何だってできた。その為に、自分の命を投げ出すことだって…。そう、私は死んでいたはずだった。でも今生きてる。骸さまの、おかげで。
は私を必要としてくれていただろうか。あの頃の私は、が何よりも大事だった。彼女のために死ねるなら本望だった。…今は骸さまのために生きているはず、だけど―――…
"……"
"どうしたんです、クローム"
クローム髑髏、これが今の私。
"あの…"
"?"
"…あ、の…っ"
"なんです?"
"…ッ"
(やっぱり言えない。)(に、会いたいだなんて。)
"なんでも、ないです…。"
"…クフ、そうですか。"
骸とクロームは会話ができる。彼女は唯一、骸と会話ができる人間だ。
(…何故、言わないのだろうか、彼女は。)
骸には分かっていた。クロームが、彼女の親友に会いたがっている事を、出会ったその時から。クロームは骸にとって数少なき大事な人だ。彼にも大事な人の為に何かしてやりたい、という気持ちはあるらしい。なら、どうしてもっと早く会いに行かせてあげなかったのか。それは彼が迷っていたから。
(会わせてやった方が良いのだろうか。)
こんなにも悩むなんて彼らしくない。という少女に会う事は、クロームにとって本当に良い事なんだろうか。骸が悩んでいるのはそこだった。なぜなら、人という生き物は弱いから。“骸”という闇で生きる事を決めたクロームに“”という光を与えてしまっても、はたして彼女は自分の元にいてくれるだろうか。…彼女を悩ませたりしないだろうか。
(ふぅ…)
骸は1つ、誰にも聞こえない溜息をついた。
凪がいなくなり、私は再び大事な人をなくし、孤独になった。毎日が退屈で仕方なかった。クラスメイトの女子達は皆、ファッションだとか、恋愛だとか、そんな話ばかりでついていけそうにもない。(どこかに猫ちゃん好きはいないだろうか。)でも、いくら毎日が重くても、私は“死ぬ”という事を選ばなかった。いや、選べなかった。(だってそんな事したら、凪が悲しむと思うから。)
「…でもな〜。何か不自然なんだよね。」
公園の前で1人、呟いた。何が不自然かって、もちろん凪の事だ。入院した次の日に、こつぜんと病院から姿を消したのだ。あの状態では動く事すら出来ないはずなのに、彼女はどうやって。(もしかしたら、)(生きているのかもしれない。)でも、たとえ生きていたとしても、彼女がに何の連絡もしないなんて。(もう、私のことなんて、どうでもよくなっちゃったのかな…。)そう思うと、胸が潰れそうになる。
「…会いたいなぁ…。」
この言葉を呟くのは何度目だろうか。はふ、と軽く笑い、ベンチに腰を下ろした。
「ねー柿ピー。ってあの女ー?」
「…うん、間違いない。行くよ、犬。」
「…へーぇい。」
犬はどこか、不機嫌だった。
「なんでそんな嫌そうなの。」
「らって納得いかねーびょん!」
「…何が。(めんどい…)」
「何れ俺らがあの女の為にとかいう奴つれてかなきゃいけれーの!?」
「違うよ。骸様の為だし、骸様の命令だからだ。」
2人は骸の命令で今、が座っているベンチのある公園の前にいる。(いわゆる尾行というやつをしたのだ。)もっとも、2人とも、それが本当に骸からの命令なのかどうかは分からなかった。ただ、夢と現の狭間で見ただけ。それでも彼等は動く。骸の命令だという可能性が1%でもあるかぎり。しかし、先ほどから犬という少年は不機嫌だった。なぜなら今回の命令はクロームに関係する事だったから。彼にとって、クローム髑髏という少女は好意を持つに値する人間ではないのだ。いくら骸の命令とはいえ、少し抵抗感がある。
「…べふに連れてかなくてもよくないれすかーなんれ俺らが
「犬、めんどいよ。(ガスッ)」
「キャンッ!いってー!何すんらよこのメガネ!」
「…行くよ。(めんどすぎる…)」
千種は犬を無理矢理黙らせ、再び足を進めた。横で犬がキャンキャン言っているが、そんなの気にしない。そして彼等は、公園のベンチで1人座っている少女、の前に現れた。
「、…」
「…!?(あ、この制服は確か…)酷妖生…!?」
「ムッキー!ちがうびょん!黒曜ら!」
「え、ええ!?(何、この人達…!)」
「…犬、黙って。それと、…ついてきて。」
「…ついてきてって…は、!?」
公園で少し休んでいこうと思い、ベンチに腰掛けたすぐ後だった。急に目の前にツンツン頭とオカッパ頭の黒曜生が現れた。もちろん私は彼等の事をまったく知らない。彼等とてそれは同じ…だろう。それなのに“ついてきて”なんて、どういう事なんだろうか。(そういえば最近黒曜中にヤバイ連中が現れたって聞いたような。)
(…あれ、まさかこいつらってその連中なんじゃ…!)
「ちゃんときーてんのかこいつ!」
「ひぃっ!(やっぱりそうなんだー!)」
「…さっさとしなよ。…いくよ、犬。」
「…ひゃーい。」
「ちょ、ちょっと待って、!」
「なんらようっせーぇな!」
「っひぃ!(こ、怖すぎる…!)」
一体なんなんだこの連中は。どうして私を連れて行きたがるんだろう。(少なくとも誘拐とかではないだろうな。)は不思議そうに顔をゆがめた。それを見た千種は、指でメガネを上げ、小さな溜息をつき、言った。
「ついてくれば、会える。」
「…え?(会えるって、誰に…?)」
「らぁーもう!こいつ頭悪いびょん!やっぱあのブサイク女のダチら!」
「っな!失礼ですねあなた!(ていうかブサイク女って誰だ!?)」
「…めんどい…いいからついてきてよ。」
「…は、はぁ…。」
は更に顔をゆがめ、立ち上がった。(会える、って…誰に?)(ああ、もしかして…)(そんな、はずは。)何故かはむしょうに泣きたくなってきた。が目に涙を溜め始めたのを見た千種は、また1つ溜息をもらし、行くよ犬、と言って足を前に進めた。
「っ!?」
今では廃墟となった黒曜ランドの建物の中で、凪――――クロームは大きく体を震わせた。(なんだろう、この感じは、)(骸さま…?違う、これは、まるで、)
「…?」
暗い建物の中で、彼女は窓から見える明るく澄み渡った青空に向かって呟いた。
"どうかしたんですか、クローム。"
"…骸さま…。"
"…クフフ、もうすぐ犬と千種が帰ってくる頃でしょうね。"
"え?は、はい…"
"…"
"…?"
クロームはほんのわずかだけ、眉をひそめた。何だか今の骸さま…変。ちょっとそわそわしてるというか、まるで犬と千種が帰ってくるのを楽しみにしているみたい。…声だけなら。しかし目を閉じて見える気がするのは、骸さまの悲しそうな顔だった。嬉しそうで、悲しそうな表情。(…自分で言ってて意味分からなくなってきた。)
がたんッ
「っ!」
「たらいまー。」
「…。」
「う、わっ!何この不気味な所…!」
とつぜん、ボロボロのなドアが少々乱暴に開けられた。(いつもの事だけど)いつものように、犬のだらしない声も聞こえたし、千種のだらしない足音も聞こえた。でも、唯一、何か違うものが聞こえたような気がする。懐かしくて、温かくて、ここにあるはずのないもの。
「…あのー、こんな変な所につれてきて何をしようと…!」
「そこ穴あいてるから。」
「へ、うぎゃッ!(ずぼっ)」
「っひゃー!ダッセーこいつ!」
「…だから言ったのに。めんどい…。」
「え、言うの遅くないですか!?」
まわりが暗くてよく見えないが、この声は間違いなく…のものだ。私が彼女の声を間違えるはずがない。(ああ、やっと、)(会える――…)しかしなぜだか、体が動かない。動きたいのに、いますぐにでもの元へ走って、、って呼んで、また猫についてお喋りしたいのに、
"クローム。"
"っ!"
"行かないんですか。"
"…っ"
クロームはきつく唇を噛み締めた。目には何か、光るものがいっぱいいっぱいまで溜められている。…ああ。結局僕は、彼女を悩ませてしまった。僕がした事は、間違っていたんだろうか…。
"今なら、逃げることだってできますよ。"
"…え…?"
クロームの大きな瞳が更に大きく見開かれ、光る雫が1粒零れ落ちた。骸はゆっくりと続ける。
"彼女は…は、まだ君に気付いていない。"
"…っ"
"…このまま、気付かれずに立ち去る事だってできる。"
"…"
"犬と…千種には、後で僕が謝りましょう。"
"…あ…"
"…では、あちらの抜け道から…"
"待ってください…っ!"
"…!?"
クロームが初めて、本気で自分を呼び止めてくれたような、気がする。彼女はいつだって自分の言う事を遂行してくれた。それにはもちろん、彼女の意志だって感じられた。でも、今まで1度たりとも彼女が、クローム自身の願いを言ってくれた事はなかった。それなのに、(…彼女にとって、という少女の存在は…。)(ここまで、大きいのか。)
"あの、"
"…なんです?"
"彼女に、…に、"
"行ってきなさい。"
"っ!"
"…たまには、自分の幸せを望む事だって必要だ。"
骸らしくない発言だが、そこには確かに骸の心があった。目を閉じて見えるのは、喜んでいるようにも思える骸の表情。クロームはそんな骸に少し驚かされながらも、震える声で言った。
"骸さまの役にたつことだって、私の幸せ…です。"
"…クフ、知ってますよ、それくらい。"
「…早く出たら。」
「いや、ちょ、これ…!」
「ダッセー!ぬけないんじゃれーの!?」
「…う、うるさい!中学生になってもちゃんと喋れないくせに!」
「なんらと!?」
「(…めんどい。)」
「それに初対面だったのにちょっと酷いんじゃないですか!?態度とか!」
「うるへーびょん!」
「うるさいよ、犬。…あとそこの女も。」
「(そこの女!?)」
なぜかと少し親しくなってしまった犬と千種は今、見事に穴にはまってしまったを見下しながらなにやら言い争っていた。(主に犬とが)
その時だった。
体が宙に浮いて、“彼女”の匂いがしたのは。“彼女”の気配が、したのは。
「 」
“彼女”の、―――凪の声がしたのは。
風の音がした。瓦礫の音がした。(犬くんの、ゲ、という声もした。)
消えた私の世界に、また色がついたような感覚。
「凪…っ!」
Noi
rincontriamo .
(また会えた。)
「柿ピー、凪って何。」
「…さぁ。」
"クロームの、名前ですよ。"
「……!」
髑髏ちゃんの親友ってポジションが素敵。 空 (2007.11.8)