Oh dio !




「凪!今日も猫について語り明かそう!」
「うん。」

私と凪は猫が好きで好きでしょうがない。だから、凪は毎晩親の居ない私の為に、猫について語り合いながら 一緒に夜を過ごしている。(主に語っているのはこの私だが。)

「んで!今日の議題ですが!」
「…。」
「ずばり“車で猫ちゃんを平気でひき殺しちゃう人ってどーよ!?”です!」
「…、何それ。」
「だからーぁ、こう、猫ちゃんが赤信号なのに横断歩道を渡っちゃったとするじゃん!」
「うん。」
「んでーそこに車がやってきてー、避けるの面倒だからってひき殺して行っちゃう人!」
「…酷いと思う。許せない…。」
「でっすよねーえ!(うわ怖っ!凪、目がマジだ…!)」

凪は普段全然喋らない。(せっかく可愛い声してるのに勿体無い!)私の前だからこそ少しは喋るが、他の人の前だと一言も話さない。 …もちろん、親の前でも。こうやって毎晩私の家に来ていることも話していないらしいから、 両親には夜遊びだと思われているらしい。(凪がそんな事するはずがない。)(だってすごく良い子だしね!) それでも、私は凪が大好きで、大切だ。親のいない私にとって、凪みたいに話を親身になって聞いてくれる人は、 本当にかけがえのない存在だ。(話の内容は大抵がアホらしいのばかりだが。)(それでも凪は真剣に聞いてくれる。)

「…ねぇ、。」
「ん?どした?」
「もし…目の前で、猫が死ぬかもしれないって所…見たら、どうする?」
「へ?もちろん助けるだろうね。」
「…。」
「猫ちゃんの死を目の前で見たら私、生きていけるか分かんないもん!」
「そう言うと思った。」
「あっはは〜。」

(なら、私が死んでもは…)(生きて、いける?)凪は心の奥底で考えていた。彼女にとっては、 なによりも大事な存在。もちろん猫よりも。(猫も大事だけど。)が死んでしまったら、きっとその時は違う場所で再会しているだろう。 と一緒に居る時間が、なによりも大切で、どんな時よりも楽しかった。ただただ幸福だった。(…にとっても…それは同じなの?)









「いよっしゃーあ!今日は猫ちゃんグッズ買いあさろう!」
「…、私あまりお金持ってない。」
「平気平気!足りない分は私貸すし!…あるかわかんないけど。」
「うん。」
「あーあ、買ってあげる!なんて言えたら最高なんだけどなぁ…。」
「いいよ、そんな。…ありがとう。」

凪が少し、微笑んだような気がした。(なんだか恋人みたいな雰囲気だな。)(けっしてそんな関係じゃないけども!)
でも、これが、凪の最後の笑顔だったなんて。




キキ――――ッ!




ドンッ







「きゃああああああああぁぁああぁ―――ッ!!」

甲高い女の人の叫び声が響いた。一瞬、ほんの一瞬だった。のとなりで微笑んでいた凪が視界から 突然消えて、かわりに飛び込んできたのは、鋭くて、鈍くて、嫌な音。そして、音の方向に視線をかたむけたの目の前に飛び込んできたのは、 車の前で横たわっている、彼女の姿。

「、ぇ…ッ?!」

両腕で愛おしそうに猫を抱えた、血でぐちゃぐちゃになっていた、凪の、姿。

「だ、誰か!誰か!救急車を!急げえええぇ!」

ある男が叫ぶ。そして、の脳が再び回転しはじめた。(あそこにいるのは、だれ?)(そこに、いる、のは、っ)

「な、ぎ…ッ」

は走り出す。血まみれの少女が、凪ではない事を祈りながら。一秒でも早く、そこに辿り着く事を祈りながら。

「なぎ、凪っ!凪凪凪凪凪凪凪なぎいいいぃッ!!」

悲鳴に似たような声で、は叫んだ。彼女との距離がやけに遠い。自分の足が、やけに重い。(ああ、神様、あなたは、) (私の大事なものを、奪いつくすつもりなんですか。)の頬を、何か温かいものが伝う。ソレはしだいに大粒へと変化し、 視界がぼやけて世界が見えにくくなる。(ああ、こうやって神はいつも、私の邪魔をするんだ。)(…そもそも神なんて、いるんだろうか。) (いたらどうか、お願い、これ以上――――…)

「…うっ…く、なぎ…ぃッ!」

やっとの思いで凪へと辿り着いたは、凪の隣に座り込んだ。それとほぼ同時に、彼女の腕の中にいた猫が顔を出し、 何事も無かったかのように去ってゆく。


猫ちゃんの死を目の前で見たら私、生きていけるか分かんないもん!


ふと、昨日自分が凪に言った言葉が脳裏をかすめた。そうだ、凪は、きっと、私の言葉を――――

「ど、してよ…っ、凪…ぃ…!」

はそっと、凪の頬にふれた。それと同時に彼女の体がわずかに震え、の手に温かい何かがつく。 温かくて、温かすぎて、そう、まるで、生命が宿っているかのように熱くて、

「…ひ、や…っぁ、ぃいやあああああぁぁああぁぁあああッッ!!!」



それはまぎれもなく、彼女の血。



(ねぇ…私、の大事なもの、守れたよ。)(少しは…役に、たてた…?)


(…そんなの、凪のほうがよっぽど大事なのに。)




Oh dio .


 
Se io muoio,

   
posso


rincontrarla ?



(ああ神よ。私が死ねば、又凪に逢えますか?)









珍しく暗い。多分続くと思います。     空 (2007.11.1)